『 ベータ2のバラッド 』 ☆☆
2007年12月某日読了
:若島正さん編訳のアンソロジー。結構期待して読んだんですが、うーーむ(^^;)。
[ ベータ2のバラッド ]
:ディレイニーは文句なしに面白い。ここで登場するヒロインってよく考えてみるとただの確信犯的テロリストでしかないんじゃないかという気もするんだが(^^;)、周囲の俗物たちのうんざりするような間抜けな退廃ぶりがこってり描かれているせいで、ヒロインに共感させられてしまうのだな。ディレイニーは中短編しか読んでいないのだけれど、どれも物語的面白さに溢れているものばかりだった。文学的技巧という点でも凝っているのかもしれないが、そういうところは僕ごときにはわからないからなぁ(^^;)。
[ 四色問題 ]
:ベイリーの短編は初めて。長編では通俗的ストリーテリングに振り回されるのが快適だったんだけれど、この短編ではバローズ的文体が鬱陶しいばかりで、物語が展開していかない。もともとベイリーの似非論理ってやつは、(たとえば「スターウィルス」や「暗黒回帰」に典型的にあらわれているように)凶悪な情念に裏づけられてこそ説得力を持つものなのだと思う。こういうスタイルで語られてしまうと、退屈な繰り言にしか聞こえないんだよなぁ。
[ 降誕祭前夜 ]
:ロバーツ。まあよろしいんじゃないでしょうか。ナチを出す以上は、謀略小説になってないとね。そういう点でちゃんと基本をおさえているんで許せる。個人的な傷心を描いた小説としても結構ちゃんと書けていると思うし。
[ プリティ・マギー・マネーアイズ ]
:エリスン。つまんねえなぁ(^^;)。妙に気取った大げさな語り口なんだけど、お話しの中身が陳腐としかいいようのないものなんで、アクビが出ます。エリスンって僕とは相性が悪いようで、どれを読んでも、ハッタリの効いたアイデアひとつだけで適当に書き殴ってしまう軽薄な作家としか感じられないですよねぇ(^^;)。
[ ハートフォード手稿 ]
:カウパーなんて名前しか知りませんよ(^^;)。通好みの渋そうな作風なんだろうと勝手に想像しているので、サンリオの絶版ものを苦労して手に入れてまで読もうという気にはならなかったですからねぇ。でもこの作品は楽しめました。まずは古い公文書に綴じ込まれていた手記という枠小説の趣向とか、疫病とタイムトラベルの組み合わせとかいった内容が(どこかで見たことのあるようなものばかりではあるものの)わくわくさせてくれるのがいい。だがそれよりも、この作品の最大の長所は、「小説」を読んでいるんだなぁという充実感が味わえるところでしょう。どこがどう違うのかは良くわからないのだけれど、たぶんディテールがしっかり書き込まれていることとか、人間や人生に対する視点がしっかりしているといった部分の差がこの充実感を生み出しているのだろうと思う。少なくとも似たようなネタを扱っていた「ドームームズデイ・ブック」の100倍くらいは面白い、というのが僕の感想です。まあ、これは相性の問題だから、人それぞれだろうな、とは思うけれど。カウパー、集める価値はあるかも知れません。
[ 時の探検者たち ]
:ウェルズ………。恥ずかしながらウェルズはほとんど読んでいません。面白いと言う評判はよく聞くので、いずれちゃんと読まないとねぇ(^^;)。この作品、「タイムマシン」のプロトタイプ」となる若き日の作なのだそうだけれど、まあ達者なこと。背景を知って読むと、なるほど頭のいい人が才気にまかせて書いた作品なんだなぁという感じもするけれど、若書きでもこれだけ書けちゃうんだから、才能のある人ってのはやっぱすごいよねぇ。
ディレイニー、カウパー、ウェルズだけだったら☆☆☆★くらいにはなるんだけれど、なんでこんなものがって作品も混じっているんで☆☆にしときます。
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「ベータ2のバラッド」 若島正・編 国書刊行会 6篇収録のアンソロジー。ただ、ニューウェーヴの傑作を集めた、と言ってる割には、必ずしもその定義に当てはまらないかも知れないが、編者の特権で入れたというカウパーが入っており、その関連としてH・G・ウェルズが入っている。てことは、純粋にニューウェーヴの傑作選の名に値するのは2/3に過ぎないのでは? そんなのありか?、という感じ。10篇20篇収録しているア... [続きを読む]
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